戦後から長きにわたり現役を貫き、フランスのシャンソン界を代表する存在だった大物歌手、ジュリエット・グレコ(Juliette Gréco)さんが2020年9月23日(水)にフランス南部のヴァール県ラマチュエルにて亡くなりました。93歳でした。「彼女がこよなく愛した自宅にて、家族に囲まれて息を引き取った」とAFPが伝えています。
戦後、サン・ジェルマン・デ・プレの芸術家や哲学者たちと親交を深め、ボリス・ヴィアンやレイモン・クノー、ジャック・ブレル、セルジュ・ゲンズブールなど錚々たる作家たちが彼女に詩と曲を提供し、知性あふれる左岸派のシャンソン歌手として一目置かれる存在でした。フランス国内のみならず、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本でも高い知名度を誇り、仏シャンソンのアイコンとして世界中の人々から愛されました。ミオセックやバンジャマン・ビオレイといった若い世代ともタッグを組み、80歳を過ぎても精力的に活動を続けていましたが、88歳を迎えた2015年に敢行した引退前の全国ツアーの途中、2016年3月に脳卒中に倒れ、その後余儀なく引退となりました。
ここからは個人的な思い出になりますが、フランス語に興味を持ち始めた頃、フランス輸入盤だったジュリエット・グレコのベストアルバムを買いました。当時の私は、「シャンソンは過去の歌」だとよく知りもしないで思い込んでいた生意気な若造だったのですが、グレコの力強さと上品さが相まった温かみのある歌声と変幻自在で表情豊かな節まわしに、一瞬にして心を掴まれました。「シャンソンってこんなにモダンなんだ」と本当の魅力を発見させてくれました。そして、黒い衣装を身にまとい、太めのアイラインをキリリと引いたいつも変わることない姿にも強く魅かれました。ちなみに、晩年のインタビューで、常に黒い衣装を着ることについて「日本で学んだ」と答えています。日本では黒は守護や防御の色とされていて、自分自身、常に体を隠していたいという気持ちがあるから、とのことでした。
代表曲は数えきれないほどありますし、好きな曲は人それぞれあると思いますが、ここに、彼女を偲んで、いくつか私の好きな曲を紹介したいと思います。長い間、素晴らしい歌声としなやかな強さをありがとう。どうぞ安らかにおやすみください。
「枯葉 Les Feuilles Mortes」
「ラ・ジャヴァネーズ La Javanaise」
「ジョリ・モーム Jolie Môme」