〈フランス映画駄話〉『ディリリとパリの時間旅行』でパリ気分を味わおう!


(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

今すぐパリに行きたい!でも行けない(涙)と淋しい思いをされている方に、トリコロル・パリが力を入れておすすめしたいフランス映画が『ディリリとパリの時間旅行』です!いつかパリに訪れるその日まで、おいしいパティスリーとショコラ・ショーをかたわらに、ディリリと一緒にパリの空想旅行に出かけましょう。それでは、On y va !

~ あらすじ ~

ベル・エポック時代のパリ。ニューカレドニアからパリにやって来た少女ディリリは、配達人の青年オレルと出会い、パリの名所を案内してもらうことに。ちょうどその頃、少女だけを狙った誘拐事件が多発しており、犯人と思しき「男性支配団」という謎の組織を探し出そうと決意するディリリとオレル。仲間たちの力を借りながら犯人の正体に迫ってゆく二人だったが、ついにはディリリが誘拐されてしまうのだった。

『ディリリとパリの時間旅行』予告編
引用元:ディズニー・スタジオ公式

陽の光に照らされたパリは美しい!

何度も登場するオペラ・ガルニエは屋根の黄金色の彫像がひときわ輝く
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

眺めているだけで心が癒されるような、美しいパリのモニュメントや何気ない街の風景の数々。ディリリとオレルが訪ねるほぼすべての建物や街並みは、描かれたイラストではなく、オスロ監督が4年もの長い時間をかけて撮り溜めた写真を使っています。写真に映る人物や車などを取り除く作業を少しでも楽にするため、気候の良い季節に早起きして人通りの少ない時間帯に撮影をしていたという監督。そんな涙ぐましい努力の積み重ねがあってこそ、1900年代初頭の素敵な世界が再現されているのですね。はじめは、場面によって色合いにばらつきが出ないよう、直射日光が当たらない曇りの日を選んで写真を撮っていたそうですが、作業を進めていくうちに「パリは陽の光に照らされてこそ美しい!」と気づき、太陽の下で輝くパリのモニュメントや街並みを撮り歩いたという監督の言葉も印象的です。パリが恋しい今はことさら、キラキラと輝いて見えるような気がします。

サクレ・クール寺院を背中に疾走する三輪自転車
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

劇中に登場するどの場所も最高にパリらしくて好きなのですが、お気に入りをいくつか挙げるとするなら、まずはモンマルトルの丘からブレーキをかけずに爆走するアブルヴォワール通り(Rue de l’Abreuvoir)のシーン。角にピンク色のレストラン「ラ・メゾン・ローズ」があり、奥に白亜のサクレ・クール寺院が顔をのぞかせるこの通りは、細く曲りくねった石畳やツタの這う壁、緑色の街灯がパリ感満載!ユトリロの絵画でも有名ですよね。オペラ座の地下にある船着場の場面もやっぱり素敵です。パリの地下に張り巡らされた下水道を利用するアイデアは、不朽の名作「オペラ座の怪人」への目くばせでしょうか。スワンボートの中でディリリを抱きしめながら、カルメンのハバネラを歌うオペラ歌手エマ・カルヴェの歌声(フランスを代表するソプラノ歌手ナタリー・デセイが担当)のシーンも本当に美しく忘れられません。

アール・ヌーヴォーの豪奢な調度品の数々が並ぶ大女優サラ・ベルナールの邸宅は、うっとりすると言うよりも、その迫力に圧倒されます。パリの老舗レストラン「マキシム」の上階にあるアール・ヌーヴォー美術館では、サラ・ベルナールが実際に使っていたベッドや椅子などの家具が展示されています。団体のみの予約制ですが見学可能です。

ディリリがパリで滞在している伯爵夫人の邸宅は、アール・ヌーヴォーを代表する建築家ジュール・ラヴィロットが手がけた集合住宅がモデルになっていますが、窓やテラスの造作は映画ならではのアレンジが加わっているので、実際の建物と見比べてみると面白い発見があるかもしれません。そうそう、パリ最古の老舗ショコラティエ「ア・ラ・メール・ドゥ・ファミーユ」もちらっと映っていましたね。

100人以上の有名人を探せ!

ふとしたシーンにも有名人が映っているかも?と気が抜けない
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

少女たちを誘拐する「男性支配団」なる謎の集団を見つけ出そうと、必死になってパリ中を駆け回るディリリとオレル。そんな彼らに重要な情報を与え、手を貸してくれるのが、ベル・エポック時代を華やかに彩った数々の芸術家や著名人たちなのです。次から次へと、数珠繋ぎのように登場する有名人たちにワクワクさせられますが、実際にはあり得なかったかもしれない!?大胆かつ豪華絢爛なキャスティングは、アニメ映画ならではの楽しみですよね。あらゆるシーンの背景にたくさんの人物が映っているので目で追うだけでもひと仕事です。監督自身、描きたい著名人が多すぎて選ぶのに苦労したというのも納得です。

ロートレックと一緒にディリリたちが訪れるアイリッシュ・アメリカン・バーには、劇中で名前が分かるエリック・サティや道化師のショコラ以外にも有名人がわんさか登場しています。入口を挟んだ左のテーブルには政治家のジャン・ジョレスと革命家ローザ・ルクセンブルグ、右手は建築家ヴィクトール・オルタとエクトール・ギマール。背が大きく開いたオレンジ色のドレスの女性は当時の芸術家たちのミューズだったミシア、その向かいには作曲家ラヴェルがいます。

アイリッシュ・アメリカン・バーの客が豪華すぎる!
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

仲良く肩を並べて赤ワインを飲むリュミエール兄弟、白いドレスのイザドラ・ダンカンと彫刻家ブルーデル、ロートレックの絵でおなじみの黒いドレスと帽子姿のジャンヌ・アヴリルの横には画家のフェリックス・ヴァロットン。他にもモディリアーニと彼のモデルでパートナーでもあったジャンヌ・エビュテルヌ、ターバンを巻いた詩人アスマン・ベン・サラと作家アンドレ・ジッド、奥に一人でたたずむ晩年のオスカー・ワイルドなど、隅から隅まで錚々たる面々が座っています。上の画像の中央に座る女性二人は、ウッディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』でキャシー・ベイツが好演していた美術収集家のガートルード・スタインとそのパートナー、アリスです。そして、カウンターで飲み物をサーブするのは、ロートレックの有名な絵「アイリッシュアメリカンバーまたはチャップブック」で描かれている中国人バーテンダー。オスロ監督の芸の細かさに感心します。

当時の熱気が伝わってくるキャバレーのフレンチカンカン
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

モンマルトルのキャバレー「ムーラン・ルージュ」では、中央の舞台で踊る水玉模様の赤いドレスをまとったラ・グーリュと背の高いヴァランタン・ル・デゾセ、それを眺める歌手のイヴェット・ギルベールなど、ロートレックのポスターでおなじみの人たちが揃います。別のシーンでは、当時の人気クチュリエ、ポール・ポワレがちょっとした工夫でディリリを素敵に着飾ってくれ、良い味を出しています。そして、ラストシーンの晩餐会に集う招待客も政界の大物から大富豪、音楽家、詩人、画家、作家、俳優まできらびやかな顔ぶれで、最後の最後まで気が抜けません。

影の存在にも光を当てる監督のまなざし

大女優サラ・ベルナール、科学者マリ・キュリー、ディリリにフランス語を教えてくれた無政府主義者のルイーズ・ミッシェルは泣く子も黙る御三家
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O

多くの著名人が登場する中で特に監督のこだわりを感じられるのは、当時、正当な評価を受けられなかったであろう人物にもきちんと光を当てているところです。それは女性であったり、妻であったり、助手であったり、差別を受けるような職業であったりとさまざまな理由はありますが、少なくともこの映画の中では存在し、生き生きと描かれています。狂犬病にかかったオレルを助けてくれるルイ・パスツールは、助手として研究に携わっていた妻のマリーをディリリたちに紹介し、すべての協力者にも感謝の言葉を添えています。のちに作家として名を馳せるコレットも、夫名義で作品を発表していたことを悔やみ、自分の名前で小説を出すのだと意気込みます。ロダンの弟子であり長年愛人関係にあったカミーユ・クローデルは、「私のお気に入りはこれ」と彼女の作品を選ぶディリリの言葉に救われたような表情をします。こういったシーンが実に自然に、さりげなく差し込まれているところに好感が持てます。

心に残る名ゼリフ

オレルの愛車Triporteur(三輪のカーゴバイク)はエコの観点から現在もフランスで利用されている
(c) 2018 Nord-Ouest Films – Studio O
〜 お会いできてうれしいです 〜

ディリリが新しい人に出