よく知らないフランス人と話していて話題に困ったときに、日本のアニメに助けられたという人は多いかも知れません。たとえばトリコロル・パリと同世代(想像におまかせします…)のフランス人たちは70〜90年代、子供のころから思春期にかけてテレビで見た日本のアニメをよく覚えている人が多く、「キャンディ・キャンディ(仏題:Candy Candy)」や「キャプテン・ハーロック(仏題:Albator)」、「シティハンター(仏題:Nicky Larson)」、「北斗の拳(仏題:Ken le Survivant)」、「ドラゴンボール(仏題:Dragon Ball)」などたくさんのアニメの話で盛り上がることができます。
その中でも本当にたくさんのフランス人が「大好きだった」「影響を受けた」と言うのが「GOLDORAK(ゴルドラック)」。日本語タイトルは「UFOロボ グレンダイザー」です。この「GOLDORAK」製作から45周年を記念したイベント「Goldorak XperienZ」の一環で、その世界観や製作の歴史を紹介する展覧会「Goldorak-XperienZ : 1975-2021 Retrospective」が、パリ日本文化会館で開催され大きな話題になっています。
ちなみに10月28日には映画館Grand Rexでミニコンサート、コスプレ大会などのGoldorakをテーマにしたイベントも行われます。詳しくは→「Goldorak XperienZ」
永井豪原作、東映アニメーション製作で1975年に日本で放送されたテレビアニメ「UFOロボ グレンダイザー」は、1978年に「GOLDORAK」としてフランスで紹介されるやいなや、絶大な人気を博しました。個人的に、「グレンダイザー」の日本での放送が1975〜1977年で、まだ小さかったからかもしれませんが、「グレンダイザー」の記憶はほとんどなく、永井豪原作のテレビアニメといえば「デビルマン」や「どろろんエン魔くん」をよく見ていたし、永井豪以外のロボットアニメといえばまず「機動戦士ガンダム」だったので、初めてフランス人に「日本のアニメといえばゴルドラックだよね!」と力説されたときには「ゴルドラックって何…?」と不思議に思ったのをよく覚えています。フランスでは「ガンダム」でも「マジンガーZ」でもなく、日本では2年半ほど放映されただけの「グレンダイザー」が一番愛されているのはなぜなのか(もちろんクオリティに疑いはないとしても、です)ずっと抱えていた疑問が今回の展覧会で解決されるかも?と期待して見に行きました。
会場にはやはり40代以上の人が多い印象。自分が小さかったころ好きだったこのアニメを自分の子供に紹介するためか、子連れの家族も多くいました。展示は制作時のデッサンや当時制作されたグッズなど、こんな機会がなければ見ることのできない貴重なものばかりで、「グレンダイザー」のことはよく知らない私でもグッと来ました。
まさに私が知りたかった、「GOLDORAK」がフランスで放映された経緯についても詳しく説明がありました。ちょっと長いですが、面白いので少しずつ書きますよー!
1975年、TF1(現存)、Antenne 2(現在のFrance 2)、FR3(現在のFrance 3)という新たなチャンネルが開局すると、TF1とAntenne 2の視聴率争いが激化しました。そんな中、若年層の視聴率を上げようとまずTF1が子供向け番組「L’Ile aux enfants(子供の島)」を開始。この番組に登場した恐竜Casimir(カジミール)は今も愛されるキャラクターの1つです。これに対抗してAntenne 2が1977年に放送開始した子供向け番組が「Récré A2」。メインパーソナリティのDorothée(ドロテ)とこの番組はあっという間に大人気になりました。この番組で紹介された日本のアニメの1つが「GOLDORAK」で、他にも「キャンディ・キャンディ(仏題:Candy Candy)」や「キャプテン・ハーロック(仏題:Albator)」、「宇宙からのメッセージ(仏題:San Ku Kaï)」などが放送されました。一方ライバルのTF1では「キャプテン・フューチャー(仏題:Capitaine Flam)」、「科学忍者隊ガッチャマン(仏題:La Bataille des planètes)」が放送されるなど、1970年代終わりから80年代にかけて、フランスでの日本のアニメ人気が子供たちの間でぐんと高まりました。
では「GOLDORAK」はどのようにフランスで放映されることになったのでしょうか。
1976年ごろ、日本を訪れたフランス人の中に、「UFOロボ グレンダイザー」を知り、このアニメはフランスの子供たちにもウケるのではなかろうかと考えた人がいました。紆余曲折ありつつもAntenne 2が放映権を獲得し、「Récré A2」で放送することになりましたが、当時のプロデューサーは「内容が暴力的すぎる」と及び腰で、1978年の夏休み期間にお試しで放送するに留めました。ところがあっという間に大人気となり、放送を継続してほしいと願う子供たちからの手紙が何千通も届きました。こうして継続を余儀なくされた「GOLDORAK」の放送は、途中中断もありつつも、1990年代の終りまで放送・再放送され、フランスの子供たちに長く親しまれたのです。
1976年、まさに「グレンダイザー」放送中の日本に行ったフランス人が見つけてきたということは、他のタイミングなら目についたのは他のアニメだったかもしれず、運命のようなものを感じてしまいます。
「GOLDORAK」が子供たちに大人気で、関連商品も売れ行き好調なのと反比例するように、メディアでは「暴力的だ」「ストーリーが意味不明」などの批判が目立ちましたが、これはまさに、この新しいアニメを理解できなかった親世代と、目を輝かせて見ていた子世代との世代間ギャップのなせる業…それから何十年も経ち、数々の日本のアニメがフランスで世代を超えて愛される現在、「GOLDORAK」はポップカルチャーアイコンの1つとしてフランスで燦然と輝き続けています。
「GOLDORAK」は1997年以降はテレビでの放送がありませんでしたが、2013年に待望のDVDが発売され、同時に「Mangas」チャンネルで再放送開始。子供のころから「GOLDORAK」を見てきた世代と、彼らの子供の世代が一緒に楽しむ新しい時代が始まり、人形やBD(バンドデシネ)、ゲームなどの関連商品が今も発売され続けています。