クリスマスと大晦日のパーティーが終わると、フランスの街中で見かけるのが、王様たち(ここではrois mages:東方の三賢人)のケーキという名前の「ガレット・デ・ロワ Galette des Rois」。12月25日を過ぎたとたん、今までパティスリーやブランジュリーを占拠していたビュッシュ・ド・ノエルが、あっという間に姿を消し、このガレットが我が物顔で並びます。だから、1月6日のエピファニー(公現祭)を待たずに、元旦に家族やお友達と食べてしまう気の早い人たちも少なくありません。
ガレット・デ・ロワの歴史にはまったく詳しくないので、ここでは風習についてだけ触れたいと思います。パイ生地のなかにフランジパンと呼ばれるアーモンドのクリームが入った丸い焼き菓子で、1月6日のエピファニー(公現祭)の日に家族で食べるのが一般的。12月末から1月いっぱい売られているので、何度も食べる人たちもいます。
まず、ガレットを人数分切り分けて、集まった人の中でいちばん幼い人が机の下に隠れたり目隠ししたりして、誰がどのピースを食べるのかを決めます。ガレットの中には、フェーヴ(そら豆)と呼ばれる陶製の小さなマスコットが1つ入っていて、それが当たった人はその年の王様、または女王様になることができ、買ったときに添えられている紙製の王冠を頭に載せます。余談ですが、ガレットを買って、お店の人が王冠を袋に入れてくれるのを見ると、遠い昔、節分のときに豆を買うと紙で出来た鬼のお面が付いてきたことを懐かしく思い出します。とにもかくにも、ガレット・デ・ロワーのフェーヴが当たると、この1年幸運が訪れるといわれる縁起物です。
ガレットを切る際に、フェーヴにあたらないようにするのがまずひと苦労。下手に切ってしまうと、フェーブが切り口からのぞいてしまったり、ナイフの刃がカチンとあたって、どこにあるのかバレてしまう場合も。小さな子供たちは、なにがなんでも王様の冠が欲しいので、切り分けるナイフを見る目つきは真剣そのもの。大人たちもなるべく子供にフェーヴが当たるように苦心しますが、やっぱり運。なかなか上手く行かないことも。たとえフェーヴが当たらなくても、最後には、子供たちが王冠を満足げにかぶっている場合が多いみたいです(笑)
ガレット・デ・ロワと言うと、パイ生地のものが有名ですが、地方によってはブリオッシュ生地で作られたものもあります。ナントやル・マンでは、パイ生地の横に必ずブリオッシュ生地も並んでいますが、パリはどうだったかなぁ。中にクリームは入っておらず、プレーンのブリオッシュ生地の上に、たっぷりのパールシュガーと大きなフルーツのコンフィがのっているだけの、とても素朴なお菓子ですが、とってもおいしいんです。もちろん、フェーヴも中に入っています。
ブリオッシュ生地のものはガレットではなく「クロンヌ・デ・ロワ Couronne des Rois(王様の王冠)」と呼ばれます。ドーナツみたいに真ん中に穴が開いて、まさに頭にかぶる王冠のような形ですね。
そして、今年近所のパン屋さんで買った2つのガレットの中から出てきたフェーヴがこちら。リスとカエル。蚤の市に行ったことのある人はご存知かもしれませんが、フェーヴはコレクターやマニアがたくさんいる、立派なオブジェでもあります。天使や人気のキャラクター、フランス各地の観光名所、いろんな職業の人々をかたどったありとあらゆるフェーヴが存在します。また、フェーヴだけでなく、木の枝や花をかたどったパイ生地の切り込みにもそれぞれ意味があり、調べ始めたらとにかく奥の深いお菓子です。
今は、中身がフランジパンだけでなく、リンゴや洋梨、チョコレート、カシスなど、1月中毎日食べ比べができるほど、いろんなフィリングがあるんです。人気パティシエが作るガレットも毎年注目の的。奇抜なアイデアのものもあれば、あえて超クラシックで王道を行くけれど絶品!といったものまで、各誌がこぞって特集を組みます。フィガロが選んだガレット・デ・ロワ2020はこちら→
ちなみに、1月6日が誕生日の私は、フランスに来て以来、パースデーケーキが毎年ガレット・デ・ロワ・・・という事態が発生しています(笑)たまには、日本風の生クリームたっぷりのイチゴのケーキにロウソクを立ててお祝いしてみたい・・・なんて贅沢な望みでしょうか。