先日お伝えしたとおり、2ツ星レストラン「Passage 53」で長年セカンドシェフを務めていた檜垣浩二シェフが自らのイタリアンレストラン「L’Inconnu」を昨年末にオープンしました。
パリで活躍する日本人シェフのお店と聞けば、これは試してみないわけにはいかないでしょう。というわけで、行ってきました〜
場所は、左岸の老舗百貨店ボン・マルシェからもほど近い7区の閑静な住宅街。お店のあるピエール・ルルー通りは、300mほどの短い小道なのですが、驚くべきことに、日本人シェフのお店が3つも軒を連ねています。ひとつめは、和食の「あい田」、もうひとつは、フレンチの「Nakatani」。そして一番新しいのが、「L’Inconnu」。それぞれジャンルの異なる料理を武器に奮闘する日本人シェフの情熱が、この小さな通りにみなぎっています。
ホールを担当されている、シェフの奥様に迎えられ、お店へ。ランチのコースは、24€(アミューズ+前菜+パスタ)、38€(アミューズ+前菜+魚または肉+パスタ+デザート)、50€(アミューズ+前菜+魚+肉+パスタ+デザート)の3種類。私は根っからの食いしん坊を発揮して、50€のコースをいただきました。
アミューズのひとつめは、トピナンブール(菊芋)のなめらかなスープ。根菜らしい大地の味がする、やさしいスープでした。ふたつめは、自然な甘みが口に広がる栗かぼちゃのタルト。
そしてみっつめは…「これはいったい何?どこを食べるの?」と一瞬驚く一品。その名も「じゃがいも」。うずらの卵を土の中に埋まったじゃがいもに見立てたお料理です。「土」はじゃがいもやオリーブ、パセリ、パン粉などでできていて、香ばしい味わいとサクサクした食感に、半熟の卵がうまくマッチしています。
アミューズが終わったところで、ほかほかのフォカッチャがどーんと登場!ふわふわのフォカッチャに、角切りのトピナンブールの食感とクレソンの香りが合わさってとても美味しい…この日、隣でイタリア人女性2人が食事をしていたのですが、このフォカッチャのあまりのおいしさにお持ち帰りで追加注文されていたくらいです。
前菜は帆立のカルパッチョ。ラディッシュやビーツが甘みとちょっぴりの苦味をプラス。リンゴとパセリのジュレがアクセントです。一番上にかかっているのはパルメザンかな、と思いきや、フロマージュ・ブランと西洋わさびのグラニテで、軽いクリーミーさがプラスされています。
魚料理は、リュー・ジョーヌ(タラ科の魚)のロースト。添えられたフェンネルとグリーンオリーブも混ぜつついただくと、アクアパッツアの味になります。びっくりするほど口のなかにうま味がじゅわっと広がって、いつまでも食べていたいしみじみとしたおいしさ。
肉料理は、黒糖の甘みが効いたソースでいただく牛肉(リブロース)のグリル。噛みしめるほどにお肉のおいしさが味わえます。付け合せのごぼうのカルボナーラ風も面白い。
そしてお料理の最後を飾るのが、毎朝シェフが手打ちするパスタ。イチョウ蟹とほうれん草のスパゲッティーニです。通常、イタリアンでのパスタはコースの最初のほうに出てくるものですが、一番イタリアンらしい料理で食事を締めくくってもらいたいというシェフのこだわりだそうです。
デザートはリンゴのタルタル。カルダモンのアイスクリームとリンゴのジュレ、一緒に食べるとますます美味しい。
↑ Photo © Yuichi Aoki
食後のエスプレッソも、イタリアから特別に仕入れた豆を使っているというこだわりの、そして味わい深い1杯でした。
どのお料理も、日本、イタリア、そしてフランスという3つの国の料理の世界を渡り歩いて来られたシェフにしか作れない味という気がしました。たとえば魚料理で、タラの下に隠されていたのは、まさに日本料理に出てきそうなカブの淡雪蒸し風のもの。なのにすべて合わさるとイタリアンの味になっているのがとても興味深かったです。
お隣のイタリア人女性たちも、「イタリアンの新しい解釈で素晴らしかった」と言っていたのですが、しっかりイタリアンでありながらも、ほのかに日本料理やフレンチのバックグラウンドが感じられるのが、このお店らしさ。食通のパリジャンたちを唸らせているのもよくわかります。
今、才能ある日本人シェフたちの活躍はパリで話題になっています。ぜひ一度、「L’Inconnu」にも足を運んでみてくださいね〜!