365日、毎日違うチーズを楽しめると言われるほど、豊富な種類を誇るチーズ大国フランスですが、冬にしか味わえない期間限定の貴重なものもあります。その代表格とも言えるのが、フランス東部、スイスとの国境にあたるジュラ山脈が横たわる地域で作られる「モン・ドール Mont d’or」です。直訳すると「金の山」で、ジュラ山頂の呼び名から名付けられました。
常温に置いておき、上の外皮をナイフでカットして剥がすと、クリームのようにとろーりとしたチーズが出てきます。それをスプーンですくってバゲットなどに付けて食すのが最高!木箱ごとオーブンに入れて軽く温めたり、外皮を最初にカットし、白ワインやニンニク、ハーブを加えて温めたりするのもおすすめです。
牛の全乳を使い、円筒形で、チーズの色は白〜アイボリー、外皮は黄色〜薄茶色であり、少し塩気を感じるもの。100g中最低45gの乳脂肪分があり、エピセア(épicéa)の樹皮を巻き付け、エピセアの板の上で最低21日間熟成させ、重さは480g〜3.2kgまでなど、正真正銘の「モン・ドール」作りには、細かな項目が決められています。19日目以降には販売用の薄い曲木の丸い箱に入れて熟成の仕上げをするのですが、その際、木箱はチーズよりもひとまわり小さいサイズに入れるのがお約束です。また、エピセアの樹皮を巻き付ける作業は「サングレ sanglé」と呼び、馬や荷物にベルトをぎゅっと巻き付ける仕草を思い起こさせます。この樹皮を作る専門職「サングリエ sanglier」や曲木の箱を作る職人もいて、モン・ドール製造・販売者組合のオフィシャルサイトのこちらのページにてそれぞれの動画(フランス語)が見ることができ大変興味深いです。
ジュラ県のあるブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域はその名前からも分かる通り、「コンテ Comté」チーズの産地です。春から夏にかけてふんだんにとれる牛の乳でコンテチーズを作りますが、牛の乳量が減る冬の期間を利用して、チーズ製造者が自宅で食べるために少量作っていたものが、「モン・ドール」が生まれた理由です。
モン・ドール製造・販売者組合のオフィシャルサイトによると、樹皮を巻き付けて作ったチーズについての最も古い記述は1280年に遡るそうです。ジュラ山脈にはエピセア(マツ科の樹木)の森林があり、ふんだんに樹皮や薄皮が手に入ったところから、チーズ作りに役立てたのでしょう。18世紀末にはフランス王室の食卓にも並び、「柔らかな食感と味わいから、クリームのようなフロマージュ」と当時の資料にも記されており、あのルイ15世も味わっていたようです。その頃から少しずつパリをはじめ、フランス各地でも知名度が上がっていったのでしょうか。1981年にはAOC(原産地統制呼称)を取得しています。
現在はフランス国内のみならず海外の旅行者にも大人気のため、以前よりは時期を少し早めて製造・販売しているとのこと。チーズ専門店はもちろん、モノプリやカルフールといった街のスーパーにもこの季節には並んでいるので、1箱約500gを8€前後で購入できます。エピセアの独特な風味ととろーり濃厚な食感を楽しみましょう!
|Le Mont d’Or|
フランスに星の数ほどあるおいしいものとかわいいものを、トリコロル・パリの目線でご紹介。パリに暮らす日本人イラストレーターmarineさんの手描きのイラストとともに、歴史のあるもの、職人さんが手作りするもの、フランス人なら誰もが知る庶民的なもの、今流行しているもの・・・など、フランスのあらゆるMerveille(素敵なもの)をお届けします。
下山真鈴 Marine Shimoyama
東京生まれ、パリ在住。アパレルブランドのPRを経て、2006年に渡仏。パリでグラフィックアートを学んだのち、イラストレーターとして活動を開始。フランスと日本で、アパレル・コスメ関連のイラストや、雑誌やウェブサイトの挿絵などを手がける。パリの日常で見かけるおしゃれなパリジェンヌをイラストで紹介するブログ「パリウォッチ」をMadame Figaro Japonのウェブサイトで連載中。