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トリコロル・パリ : パリとフランスの旅行・観光情報 | July 22, 2019

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フランス映画駄話

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〈フランス映画駄話〉タイピスト!part 2

〈フランス映画駄話〉タイピスト!part 2

レビューpart1に続いて、こちらでは『タイピスト』のそこかしこに散りばめられたオマージュや、レトロな音楽、共演者たちの話をしていきたいと思います。

☆以下、ネタバレを含むこの映画にまつわる駄話になりますので、未見の方はご注意ください。



● 監督のシネフィル魂と映画へのオマージュ ●
この作品で長編デビューを飾ったレジル・ロワンサル監督ですが、フランスにもこんな感じの監督さんが登場したか・・・と本当にうれしい気持ちになりました。こんな感じってどんな感じ?自分の好きな映画やモノを組み合せて、上手にサンプリングして、作品のなかに散りばめるという感じ。アメリカならウッディ・アレンやクエンティン・タランティーノ、イギリスはサイモン・ペグ&ニック・フロスト、そして日本なら今や『あまちゃん』人気がものすごい宮藤官九郎のイメージです。案外こういうスタイルの監督さんて、フランス映画界にはいなかった気がするんですよね。同世代の監督がキター!と個人的には興奮しました。ただ映画好きが撮った作品ではなく、膨大な量のリサーチを元にきちんと丁寧に作ったと感じられる点も、とっても好感が持てます。今から次回作に期待しちゃいますね。

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さて、自らシネフィルと称する監督らしく、この映画には本当にたくさんのオマージュが散りばめられています。カラフルなタイトルバックはビリー・ワイルダー感がぷんぷん。

populaire7早打ち大会の会場で机とタイプライターがずらりと整列しているカットは、『アパートの鍵貸します』でジャック・レモンが勤めるオフィスのシーンを思わせます。あの映画では机の上に何が載っていたんだろう。タイプライターではなさそうですかね。そういえば、あそこは保険会社だったはず。ロマン・デュリス演じるルイの職業も保険屋さん!ワイルダーつながりできてますねぇ。ルイはお料理上手のようでしたが、ジャック・レモンのように、テニスラケットでスパゲッティの湯切りをするぐらいのワイルド感が欲しかったですね(笑)
ワイルダーと言えば、マリリン・モンローの『お熱いのがお好き』も。ローズの部屋の壁にはマリリンとオードリーの切り抜きが貼ってあり、この女優ふたりのエッセンスもローズの役柄を形作っています。パート1で書きそびれましたが、『マイフェア・レディ』と並んでオードリー・ヘップバーンが洗練された女性に成長していく『麗しのサブリナ』も、この映画のテーマに似てますね。ちなみに、ローズのポニーテイルはオードリー・ヘップバーンと丸っきり同じスタイルにした、という話ですよ。

アメリカ人の親友ボブは、初登場シーンから『ロシュフォールの恋人たち』のジーン・ケリーの顔がちらつきました。清潔そうなヘアスタイル、健康で屈託のないスマイル。特にレジスタンス、ノルマンディ上陸作戦を経て迎えた終戦後のフランス人には、アメリカ人に対する複雑な心境があったのかもしれません。その微妙な関係が、ボブとルイ、そしてマリー(ボブの妻)の恋愛関係にも上手いこと絡んでいてぐっと切ない気持ちになりました。

映画の全体を通して、少女マンガ的なかわいいエッチ要素がちょこちょこ挟まれていましたが、ぐっと大人っぽいこれぞフレンチ・エロスといったホテルのシーンは、ヒッチコックの『めまい』へのオマージュだと、フランスの批評家たちも多くコメントしています。あのシーンだけ、赤と青に点滅する外のネオンの色に顔と体が染まり独特でした。

『シェルブールの雨傘』もインスパイアを受けた映画のひとつとして監督が挙げていますが、ローズが商店を営む家の娘だったり、父が婚約させたがっているのが自動車整備工の男だったり、この辺りも『シェルブールの雨傘』のふたりを思わせます。戦争が引き裂いた恋というテーマも、ルイとマリーの関係に近いですし、舞台が1957年〜1959年というのも共通しています。ローズが地元に帰る雪のシーンは、コートをまとった後ろ姿がちょっぴりカトリーヌ・ドヌーヴ風でした。ほかにも、窓から風が巻き起こり紙が舞い上がるシーンはデジャヴ感はあるのだけど、どうしても分からない(どなたか教えて!)。まだまだ私が知らない元ネタがたくさん隠れているのだと思いますが、こんな風に色々と思いをめぐらせて、お友達と語り合える映画というのは、良いものだと思います。



● 音楽セレクトのセンスの良さ ●
軽快でしゃれた音楽も、この映画のワクワク感をアップしている大きな要素のひとつ。あえてオリジナル曲は使わず、当時の名曲をセレクトするあたりは、ウッディ・アレンぽいかも。クライヴ・リチャードソンの「Girl on the Calender」やシリル・ワッターズの「Stroll in the Park」のためだけにも、サントラ盤を買いたいと思っちゃいますね。軽やかなメロディに、タイプライターをリズミカルに打つサウンドが相まって、この映画ならではのオリジナリティがプラスされていました。
そして、ロックが誕生した50年代。競技会のバックに流れていた「Dactylo Rock」は当時大人気だったレ・ショセット・ノワールの曲。そのボーカリストは、ルイの父を演じていた「いくつになってもチョイ悪オヤジ」のエディ・ミッチェル。Dactyloというのはフランス語で早打ちのこと。映画のテーマとずばり合ったこの歌を使わない手はないですよね。監督としては、オマージュとしてエディ・ミッチェルに出演してほしいという希望が最初からあったのかもしれません。エディの若かりし頃の動画を発見したのでどうぞ。

「Dactylo Rock」Les Chaussettes Noires

● レトロ風映画の流行と絶妙のキャスティング ●
2006年に公開されたミシェル・アザナヴィシウス監督の『OSS 117』を皮切りに、カンヌ映画祭とアカデミー賞でたくさんの賞に輝いた同監督の『アーティスト』と、ここ数年フランスでは、特定の年代を舞台にした「レトロ風映画」の人気が高まっています。そして今回の『タイピスト!』でさらにそのブームに拍車がかかりそうな予感。この3つの作品すべてに出演しているのが、ベレニス・ベジョ。アザナヴィシウス監督の奥様でもあるとっても美しい女優さんですよね。

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彼女は本当に何を着てもよく似合う!だからこそコスプレ風味の映画との相性がぴったりなのかなと思います。『OSS 117』『アーティスト』も、『タイピスト!』も大ヒット。彼女が出演するレトロ風映画に間違いなし!という法則を勝手に作らせていただきました。

アメリカTVシリーズの『マッドメン』のように、レトロをモチーフにした作品の人気はフランス国内に留まりません。ぜひ日本でも、50年代を描いた映画を作ってほしい!『三丁目の夕日』とは違ったテイストの、スタイリッシュな雰囲気のものが見てみたいなぁ。

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ジャピー社の軽薄そうな(笑)若社長を演じるニコラ・ブドスは、50年代から現在にかけてコミカルなフランス映画になくてはならない人気役者ギイ・ブドスの実の息子。二世俳優というエッセンスが役どころにプラスされて、絶妙なキャスティングだったと思います。ほかにも、前述のアメリカ人ボブ、ルイの母役のミュウミュウ、ローズのパパ、そこで働く田舎娘(フランソワーズだったかな)と、世界観を大切にした脇役のキャスティングもこの映画が成功した理由のひとつかもしれません。

● エトセトラ ●
ラストでルイが手帳に描いたゴルフボール型の代物は、のちにタイプライターに取って代わり、その後の印刷機にも大きな影響を与えた「マルゲリット」と呼ばれるタイプ方式。これをルイが発明していたというネタは『バック・トゥー・ザ・フューチャー』的な面白みがありますね。この後ルイは大金持ちになるのかな・・・なんて想像もできますが、ボブに「この商売はおれが引き受けるから、儲けは50/50だぜ」なんて言われちゃってるから心配です。ボブー!またゴッホの絵の二の舞で、お父さんに「なぜ70/30にしなかったんだ」とどやされているルイの姿が目に浮かんで不安。
そして「マルゲリット=マーガレット」はローズの亡くなったお母さんの名前でもあり(雪をかぶったお墓にそう名前が刻まれていた)、ふと見上げると小さなマーガレットが雪の中に咲いているのも印象的なシーンでした。「マルゲリット」をさりげなくキーワードに入れているあたり、監督こまかいなーとつっこみたくなりますね。

そうそう、鳥小屋で発見されたゴッホの絵の話も実話をベースにしていますね。ほかにも、ローズが家を出る日にパパが観ていたTVニュースの内容は何なのか(パリのメトロっぽいのですが)、知りたくて仕方ありませんが、こうして隅から隅まで何度も見直したくなる映画が誕生してうれしいです。

強いて言えば、NY世界大会での韓国代表の描写はどうなんだ・・・と気になりましたが、この時代の映画のアジア人は似たような扱いを受けていましたよね。ヘップバーンの『ティファニーで朝食を』の日本人とか。そこもヘップバーンつながりで、監督が敢えて変なアジア人を投入していたのであれば、許します(笑)。そこまでオマージュするか、という感じですけど。

社長と秘書という関係のふたりは、常にvousを使って話していました。それが突然tuに変わるのが、ローズが婚約者のフリをするシーン。あの辺のドキドキ感は日本の少女マンガに通じるところがありました。そしてふたりが愛を確かめ合ったあとは、常にtuで会話していましたね。とはいえ、ルイは初めから秘書であるローズを「Mon chou 私のキャベツ=かわいい人」という愛称で呼んでいると言う、今の時代ならセクハラで訴えられそうな感じですが(笑)、その辺りのふたりの距離がとってもキュートでした。フランス語を学んでいる人には、vousvoyerの参考にもなるかもしれませんね。

いやぁ、語り尽くせない魅力の『タイピスト!』。このレビューをふまえた上で、もう一度、いや何度でも見返して楽しんでもらえるとうれしいです。

レビューpart1はこちらから
『タイピスト!』オフィシャルサイト
Photo : © Mars Distribution, DR, Ciné Tamaris

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